きょうは心がさみしいので
一日中ピアノを弾いて過ごそうか
胸の痛みはそのままに
好きな曲ばかり選んで
優しくていねいに
心もとない小さな指で
最初に弾いたド・レ・ミ
あれはシャンシャン響く
おもちゃのピアノだった
真っ赤なバラの模様の
いつか、足が一本折れたっけ
ある日アップライトがやって来た
狭い畳の間に燦然と輝く
漆黒の王女さまが
だが、気難しい少女はその価値を知らず
ガチャガチャ、容赦なく練習する
ブルグミュラー、バイエル、ハノン
ツェルニー、ソナチネ、ソナタアルバム…
家人と共に古びて行き
とうとうひとりぼっちになって
クレーンで運ばれて行った私のピアノ
美しく繊細な音など一度も鳴らされないまま
今ごろはどこか遠い町で
小さなかわいい指が
ド・レ・ミと弾いているだろうか
だが、願えるなら
心優しい人の手で
大切に奏でられていてほしい
深く眠っていた
彼女の一番美しい音で
愚かで残酷だった私に代わりに
今日は心がさみしいので
しきりに彼女を思い出す
私の古いピアノのことを
Yumi
Illustraetd by Hikaru 🐰
はじめてのピアノ
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