父には4人弟がいて
次々にお嫁さんが来た
気立てのいい実家のおばさん
むっつり無愛想なお嫁さん
来るたびせっせと風呂場を磨いて行く
働き者のおばさん
そして、とんでもないお嫁さん
それぞれにまつわる面白エピソードを
母はゆったり話してくれた
朝食後に茶碗も洗わないまま
イタズラっぽい目をして
悪意というものを全く混じえない人だったから
それらはみなカラリとおかしく
時折悲しかった
私には8人おばもいて
それぞれにお婿さんがやって来た
剛毅でハンサムな遠洋船乗り
おちゃめなトラック運転手
地元で知る人ぞ知る将棋名人
律儀で几帳面な公務員…
人格も生活もバラバラなのに
たった一つの共通項
どの人も飲んべえだった
折りがあれば集まって来て
狭い座敷にテーブルをつなげ
酒肴をずらりと並べ
差しつ差されつ
真っ赤に熟れていく
そんな時、
女たちは台所に集り
くすくす語り合う
燗とおかずの世話をしながら
女の一生を
世間知らずの少女の耳に入るのは
社会的マイノリティの恨み節ではなく
それを逆手に取る賢さとたくましさ
道ならぬ恋ゆえの未婚の母は
人生の悲哀ではなく
メロドラマの虚構性を教えてくれる
何しろ来るたび
爆竹のように騒々しい人だったから
やがて男たちの歌が始まる
女たちも台所を出て夫らに寄り添う
何やらつつましげに変化(へんげ)して
手を打ち鳴らし
間断なく歌い継がれる民謡、流行歌、演歌に軍歌
そこに生まれる
野太いだみ声のハーモニー
時折、声高に誰かのアリアが飛び入れば
静かに聞き入り
それから、また、延々と
心地よい唱和が続いて行く
どこかしら似ている血族と
異質な匂いを持つ人々とが
難なく一つに溶け合って
酒と手拍子とフォルクローレのマジックで
かつて歌はかく歌われた
秋津の島のそこここで
羽根飾りのない
「ダンス・ウィズ・ウルブス※」らの宴

Illustrated bay Hikaru 🐰
おばさんたち
※ケヴィン・コスナー主演のネイティブ・アメリカンの映画です😊🏹

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