義母はどんどん忘れてしまった
何をどこに置いたか
だれと何を話したか
何を食べたか
いや、そもそも食べたのかどうかさえ…
「だからぁ~」
「そうじゃなくてぇ~」
「だめだめだめ」
私の言葉はすべて否定形で始まり
だんだん小言になって行く
ついに義母が反撃に出た
「私がしっかりしないのはゆみさんのせいだ!」
え、どうして?
「ゆみさんが私を怒らないからだ、『もっとしっかりしなさい!』って」
だから…私…
さっきからずっと怒ってるでしょ?
「そんなんじゃだめだ
もっと、こんな風に怒らなくちゃ!」
義母は実演してくれる
頭ごなしにガミガミ怒るとはどういうものなのかを
おかしくて顔がゆるむ
笑いながら少し悲しい
ああ、義母はこのように怒られてきたのだ
親に、大人に、男たちに、弟にさえ
厳しい時代だった
戦争があった
親たちは食べること、食べさせることで精一杯だった
「女」は初等教育で十分だった
親戚中の電話番号を暗記してしまう人でも
空襲で焼け出されて大都会から田舎へ
見合いして「水屋さえない」結婚生活を一から始めた
車の運転は夫に許されなかった
勤めに出ることも
畳に身を丸めて洋裁の内職ができたから
老いてさえ私より10㎝も身長があった
電車で背をかがめて立つうち猫背になったんだとか
「でかい女はみっともないで」
タカラジェンヌになりたかった人
だんだん生活がよくなった
孫たちはやさしいし
「今はなぁんも心配いらん」と言う
迫力のない嫁の小言など
「屁でもない」そうで
それでも、ふと思う
この人が自分の娘だったらと
私はできる限りの教育を受けさせ
好きな仕事に就けるように祈り
街では背筋を伸ばし堂々と歩きなさいと言ったはず
「結婚?」
そんなものは好きにすればいい
悔しいのは「女」をギュギュッと押さえつけた時代
いやいや、
「人間」をギュギュッと押さえつけた時代か…
大好きな黒飴でご機嫌を取りながら
もしもこの人が自分の娘だったらと思う
頭が切れてファンションセンスに長け
すらりと背の高い彼女を
私はどんなに誇らしい気持ちで
惚れ惚れ見上げたことだろう
Yumi (お盆に)

Illustrated by Hikaru 🐰
「絵とおはなしのくに」おばあちゃんがタカラジェンヌだったらhttps://yumiito67.wordpress.com/2025/07/25/%e3%82%aa%e3%83%8b%e3%83%9c%e3%83%bc%e3%81%ae%e3%81%aa%e3%81%a4/
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